チョコレート

I n t r o d u c t i o n

　黒人として、アカデミー史上初の最優秀主演女優賞を受賞したハル・ベリーと、個性は俳優ビリー・ボブ・ソーントンが共演。深い喪失のふちから、愛を知ることによって人生を取り戻す　男と女の新たな出発の物語。本年度アカデミー賞の最大のハイライトは、ハル・ベリーの涙ながらのスピーチであった。アカデミー賞の歴史を塗り替え、黒人で初の最優秀主演女優賞を受賞、愛に飢えた寂しくも情熱的な女を熱演、演技派としての評価を不動のものにしてみせた。

　死刑囚の夫と幼い息子を相次いで亡くした女(ハル・ベリー)と、愛を注ぐことを知る前に息子(ヒース・レジャー)を目の前で失った人種差別主義者の孤独な男(ビリー・ボブ・ソーントン)。それぞれの家族の死をきっかけに、交わるはずのない二人が心を通じ合わせていく…。深い喪失の淵から、愛を知ることによって人生を取り戻す男と女の新たな出発を描いた、心に染み入るビターなラヴ・ストーリーが本作である。

C a s t & S t a f f

　　ハル・ベリー・・・・・・・・・・・・・・・・　（死刑囚の夫と息子を亡くした黒人女性　レテイシア）

　　ビリー・ボブ・ソーントン　・・・・・・　（人種差別主義者で孤独な男　ハンク）

　　ヒース・レジャー　・・・・・・・・・・・・　（ハンクの息子　ソニー）

　　ピーター・ボイル　・・・・・・・・・・・・　（ハンクの父　バック）

　　　

　　監督／マーク・フォスター

Profile of Hero／Heroin

Halle Berry

　オハイオ州クリーブランド生まれ。１７歳のときミス・ティーン・コンテストに優勝しモデルとして活動を始める。１９９１年『ジャングル・フィーバー』で映画デビュー。『ブーメラン』（92）、『フリントストーンモダン石器時代』（94）、『エグゼクティブ・デシジョン』（96）、『ブルワース』（98）などに出演。１９９８年には『ピープル』誌のもっとも美しい５０人にも選ばれている。本作「チョコレート」でアカデミー史上黒人女優では初の主演女優賞を獲得。

Billy Bob Thornton

　1955年アンカンソー州生まれ。舞台やテレビシリーズに出演するが、あまり目立たなかった。そんな彼が一気に表舞台に躍り出たのが初監督作品にして脚本／主演も同時にこなす離れ業をこなした「スリング・ブレイド」(９６)でいきなりアカデミー賞最優秀脚色賞を受賞。演技面でも高い評価を受ける。妻は女優のアンジェリーナ・ジョリー。主な出演作は「Uターン」(９７)、「パーフェクト・カップル」(９８)、「アルマゲドン」(９８)、「シンプル・プラン」(９８)、「狂っちゃいないぜ」(９９)、「バンディッツ」（０２）など。

The Director

監督のマーク・フォスターは1970年、スイス生まれ。幼い頃に兄を自殺で亡くす。スイスで大学入学資格を取得後、1990年にニューヨークへ移り、ニューヨーク大学で映画を学ぶ。 '93年に卒業後もニューヨークに留まり、ニ本のドキュメンタリー映画－十代の自殺を扱った『Silent Windows』といじめを扱った『Our Story』を監督。 '95年には自らの脚本を映画化した『Loungers』で映画監督デビュー。同作はスラムダンス映画祭観客賞を受賞。続く監督・脚本作『Everything Put Together』（00）はインディペンデント・スピリット賞のサムワン・トゥ・ウォッチ賞を受賞した。

Production Note

　撮影は5月から6月にかけて蒸し暑いニュー・オーリンズ近郊で5週間かけて行われ、うち1週間はルイジアナ州立刑務所でロケが行われた。ここでは本物の死刑囚棟も撮影に使われた。スタッフの中にはジョークを飛ばすことで気を紛らわす者もいたが、他の者たちはこの環境にすっかりすくみあがってしまった。看守役で出演した脚本家のミロ・アディカは、木製の電気椅子に刻まれた誰かのイニシャルを見つけ、自分の脚本のリアリティを肌で感じたという。

　フォスター監督は、このロケは演技にも影響を与えたと思っている。｢死刑囚の監房を歩いて囚人たちの目を見れば、心動かされない人はいないよ。感じるんだ。手にとるようにね。誰だってあの恐怖の感覚を実感してしまうんだ。僕らが撮影に使った廊下はとても狭くて、俳優たちやスタッフはしばしばそこに閉じこめられるハメになったんだ。文字通り、出口なしの状態だったね｣。

鑑賞後の一言
　　最初の死刑囚の電気椅子のシーンではグリーンマイルを思い出したが、あまり観たくない光景には違いない。その後、同じ刑務所に勤務する息子が失敗ばかりするのを叱責してついには、自宅で親子喧嘩となり息子が自分は父親を愛していたと言って、息子が自ら命を絶つシーンでは、やるせない思いを感じた。黒人を好まない人種差別主義者であった主人公が息子の自殺をきっかけに、同じく息子を事故で失い、生活に苦しむ黒人女性と出会い、お互いに寂しさを慰めあい、黒人の住人にも普通に接し始めていく主人公のやさしい心を取り戻していく姿は観ていてほっとする。